2010年11月10日水曜日

藤壺

藤壺と聞こゆ
藤壺と申し上げる

げに御かたち、あり様、あやしきまでぞおぼえたまへる
本当に、お顔立ちや、立ち姿、不思議なほど、桐壺にそっくりに感じられます。

これは、人の御きはまさりて、思ひなしめでたく、人もえおとしめきこえたまはねば、うけばりて飽かぬことなし
この方は、際立ってご身分が高い方なので、思いなしに見事で、誰もこの方をおとしめることもなければ、誰はばかることなく、不満もない。

かれは、人の許しきこえざりしに、御こころざし、あやにくなりしぞかし
桐壺は、身分不相応だったために、帝のご寵愛があいにくとなってしまった。

おぼし紛るとはなけれど、おのづから御心うつろひて、こよなう思し慰むやうなるも あはれなるわざなりけり
桐壺を忘れることはなかったのだけれども、自然と藤壺に心が移っていき、こよなく心がなごんでいくというのも、人の心の機微であった。

源氏の君は、御あたり去りたまはぬを、ましてしげく渡らせたまふ御方は え恥ぢあへたまはず
源氏の君は、いつも帝の側にいるので、まして頻繁にお渡りになる藤壺は 恥てばかりはいられず

いづれの御方もわれ人に劣るらむと思いたるやはある、とりどりにいとめでたけれど、うち大人びたまへるに
どの方も、わたしは人より劣っているとは誰が思うでしょうか、それぞれに大層みごとなご様子ですが、大人びていらっしゃるのに対して、

いと若う、うつくしげにて、せちに隠れたまへど、おのづから漏り見たてまつる
たいへん若くて、可愛らしくて、一生懸命隠れようとされるけれども、自然とお姿が拝見される

母御息所も、影だにおぼえたまはぬを、いとよう似たまへりと 内侍のすけの聞こえけるを、若き御心地にいとあはれと思ひきこえたまひて、常に参らまほしく、なづさひ見たてまつらばや とおぼえたまふ
母上も、影すら覚えがないけれども、たいへんよく似ていらっしゃいます と内侍のすけが申し上げるので、若いお心にも哀愁が沸き起こり、常にお部屋に参りたく、お側にあがって、なんとかお目にかかってみたいもの と思うようになる

上も、限りなき御思ひどちにて、な疎みたまひそ、あやしくよそへ聞こえつべき心地なむする
帝も、限りなく思いが深いもの同志であるので、よそよそしくしなくていいですよ、私には二人が不思議と、他人とは思えないように感じられるのです

なめしと思さでろうたくしたまへ、つらつきまみなどは、いとよう似たりしゆゑ、かよひて見えたまふも似げなからずなむ、など聞こえつけたまへれば
ぶしつけと思わないで、やさしくしてあげてください。あなたは、お顔立ちや目元などは本当にこの子の母親ににているから、心が自然にかよってしまうのも、仕方のないことなのですよ、などどおっしゃるので、

幼心地にもはかなき花、もみじにつけても心ざしを見えたてまつる
幼い心でも、春の花、秋の紅葉と、四季折々のこころざしをお伝えする