2010年12月20日月曜日

故大納言の遺言

むまれし時よりおもふ心ありしひとにて
この子が生まれた時から、思いが格別だったために
My husband was engaged in the position of Dainagon .
He had deep affection for her daughter and had a intention to raise her up suitable to the court .
But he had died before his daughter reached appropriate age for the court .

故大納言、いまはとなるまで ただこの人の宮仕えの本意かならず遂げさせたてまつれ
今は亡き夫、大納言は、いまはのときにまでも、
「この子の宮仕えのかねてからの希望は、必ず叶えて差しあげてください」
Even at the edge of his life , he asked me " Please satisfy my wish for my daughter certainly ,"


我なくなりぬとて、くしをしう思ひくづほるな とかへすがへすいさめおかれ侍りしかば
「わたしが亡くなったからといって、気がくじけたりしないように」と返す返す、訓戒していたので
"Don't break your heart despite of my death ."   He refrained time after time . 

はかばかしう後見おもふ人なきまじらひはなかなかなるべきこととおもうたまふながら、ただかの遺言をたがへじとばかりにいだしたて侍りしを  
はかばかしい後見人がなく参内するのは、なかなかなこととは思いながらも、ただ遺言を護ることだけのために、宮中のお仕えをさせていたのですが
So I sent my daughter to the court only not to be against his wish .
I suspected that there would be a plenty of difficulty for my daughter not being supported by power of paternal position in the court .

身にあまるまでの御心ざしのよろづにかたじけなきに、人げなき恥をかくしつつまじらひたまふめるを
身にあまる御心ざしをいただきありがたく、人並み程には用意ができない恥を取り繕いつつ、宮中での交らいを続けていったようですが
Only depending on unexpected bless from the emperor ,
although we could not afford to prepare a sufficient items to be needed in a life of the court .

人のそねみ深く、やすからぬこと多くなり添ひ侍るに、よこざまなるようにて、ついにかくなり侍りぬれば
人のそねみは深く、心が休まる暇もなく、ついに横死のように亡くなってしまった今となっては
We managed to survive but finally she died as if laid on the street receiving a pile of plenty  deep envy .

かへりてはつらくなむ かしこき御心ざしを思ひ給へ侍る これもわりなき心の闇になむ
畏れ多い御心ざしも かえってつらく感じられるのもので、それは親が子を思う心の闇です
The result was a reverse from an affection of the emperor .
Those thoughts are a part of the darkness in my heart which might occur when a mother think of her own daughter  .

など言ひもやらずむせかへり給うほどに夜も更けぬ
と言うまもなく、涙でむせかえっていらっしゃるうちに夜も更けていった
While speaking an endless regret , the night goes by .

夜いたう更けぬれば、今宵過ぐさず御返り奏せむ といそぎまゐる
命婦は夜が大変更けたので、今宵のうちに帝にお返事を申し上げなければと急いで帰り支度をする
Myoubu prepared for returning to the court to mention about villa appearance while the emperor is awake at the night .

月は入りがたの、空清う澄みわたれるに、風いと涼しく吹きて、草むらの虫の声々もよほし顔なるもいと立ち離れにくき草のもとなり
月は西の地平線へ沈みかけ、薄明かりがさして澄みわたり、風は涼しく、
草むらの虫の音は、感情を掻き立てるように心に入り込んでくるために、
このまま立ち去りがたくていつまでもここにありたいような草の庭である
The moon is facing to the edge of a mountain .
The air is very clean to have been blown up by the wind .
Now the wind breeze pleasantly and insects int the grasses began to sing at a burst whose interesting atmosphere prevent Myobu from leaving this place

鈴虫の声のかぎりをつくしてもながき夜あかずふる涙かな
鈴虫がこんなに声を限りに鳴いてくれているのに
長い夜をかけても、涙が枯れ果ててはくれない。

えも乗りやらず 
ゆげひの命婦は、この風情のある庭をなかなか立ち去りがたく、車に乗ってしまうことができない。

いとどしく虫の音しげき浅茅生(あさぢふ)に露おきそふる雲の上の人 
雲の上からいらっしゃった方は、激しく鳴く虫の音がこだまする
浅茅が生い茂る草むらに、涙を残していかれました。

かごともきこえつべくなむ といはせ給ふ
ぐちもついつい出てしまいそうです。と母上は、遣いのものに言わせる。