をかしき御贈り物などあるべき折りにもあらねば、ただかの御形見にとてかかる用もやとのこしたまへりける御装束ひとくだり、御髪上(みぐしあげ)の調度めくもの、添へたまふ
気の利いたお土産などあるようなときではないので、ただ、形見として、このような折にと残しておかれた装束一揃い、髪上げのお道具などを添えてお渡しになる
There seemed to be no use to present an interesting materials and the old lady intended to devote a relic to the emperor , as like a set of kimono , an apparatus for setting hair .
若き人々、かなしきことはさらにも言はず、
若いおつきの女房たちの悲しみは言うまでもなく、
Although surrounding person of this villa is still be in a deep sadness ,
内裏(うち)わたりを朝夕にならひて、いとそうぞうしく、うへの御有様など、思ひ出で聞こゆれば、
朝夕、華やかで賑わう宮中でのお仕えに慣れていたので、こんな静かな里でのお仕えはなんとも寂しく、帝のご様子などを、それぞれに思い出してなつかしんでいるので、
since they had been accustomed to be busy life in the court , they could not endure a rural calmly circumstances any more , and they sometimes talk about the emperor as good memories .
とくまゐり給はんことをそそのかし聞ゆれど、
すぐにでも宮中へ参内しましょうと、母上に申し上げるのですが
They urged the old lady to come up to the court with newly born prince .
かくいまいましき身のそひたてまつらむもいと人聞き憂かるべし、また見たてまつらでしばしもあらむはいと後めたう思ひきこえたまひてすがすがともえまゐらせたてまつりたまはぬなりけり
わたしのような者が若君についていくのも体裁がいいものではないし、また若君だけ参内させたとしても気がかりでしかたないだろうし、と思い迷い、すがすがしく若君を参内させるようには事がはこんでいかないようです。
This grandmother thought around whether to go withe a prince or to let him alone .
It might be miserable to be accompanied by grandmother , nevertheless , if a boy would have been separated , it would be so much worry about .
All these hesitation delayed the thing to go .
命婦は、まだおほ殿ごもらせたまはざりけると、あはれに見たてまつる
命婦が宮中に帰ってみると、もう明け方というのに、帝はまだおやすみにならず、たいへん感慨深い風情でいらっしゃるようだった。
Returning to the court , Myoubu found the emperor still be arise although very late at night .
御前の壺前栽(つぼせんざい)の いとおもしろき盛りなるを、ご覧ずるようにて、しのびやかに、こころにくきかぎりの女房よたりいつたりさぶらはせたまひて、御物語せさせたまふなりけり
お庭の、坪に植え込んだ草木が、ちょうどいい時期なので、それをご覧になっていらっしゃるようで
ひそやかに、心おきなく過ごせる女房を4~5人周りにはべらわせて、なにかお話をなさっている。
Sitting on the edge of the courtyard with several immediate servant while he talks about something at a view of specially planted trees .
このごろ、明け暮れご覧ずる長恨歌の御画、
このごろは、明けても暮れてもご覧になっているのが、長恨歌の内容を絵にした絵巻物や絵草子、屏風絵などで、
亭子院の描かせたまひて、伊勢、貫之に詠ませたまへる大和言の葉をも、
亭子院にお住まいになられていた宇多天皇が、絵師に描かせて、伊勢や紀貫之などの歌人に長恨歌の中の玄宋皇帝と楊貴妃由来の詩を詠ませた大和言葉なども、
唐土(もろこし)の詩をも 、ただその筋をぞ枕ごとにせさせたまふ
中国の詩なども、 長恨歌にまつわる内容のものばかりを集めて、いつもお話になっていらっしゃる。