2010年12月14日火曜日

楊貴妃のかんざし

御返りご覧ずれば、
帝は手紙の返事をご覧にになると、
The emperor looked through returning letter from a villa .

いともかしこきは、おき所もはべらず、かかる仰せごとにつけても、かきくらすみだり心地になむ
たいへんもったいないお手紙を頂戴いたしまして、置くところもございません。参内の仰せにつきましても、心が乱れるばかりでございます。
The answer was written in it . " I have a honor to receive a letter not to find to be placed on .
Even an invitation to the court could only disturb me in suspension .

荒き風ふせぎしかげの枯れしより小萩がうへぞしづごごろなき
宮中はひどく荒れた風が吹いていて、小萩を影においていた、母親はもういないから、若宮がこれからどうなるのか不安でしかたがないのです。
I would be anxious for a very little tree under the wild wind of the palace now that a tree of mother had been ruined although it had made up some shade .

などように乱りがはしきを、心をさめざりけるほどとご覧じ許すべし
などのように、書き散らされているのを、まだ心が落ち着くような時期ではないということで、ご覧になられ許されているようでした。
The emperor had permitted a little upset emotion as an extension after her daughter's death .
  
故大納言の遺言あやまたず、宮仕えの本意深くものしたりしよろこびはかひあるさまにとこそ思ひわたりつれ とうちのたまはせて、いとあはれにおぼしやる
亡くなられた大納言の遺言をたがえず、かねてからの希望であった宮仕えをきちんとおさせくださった後の本当の喜びはこれからだったのに と無意識にもお心をそのまま仰せになり、たいへん可哀想に里を思いやる
" I wish to reward her integrity not being against her husband's hope for something delightful incidents.  "


かくてもおのづから若宮などおひ出でたまはば、さるべきついでもありなむ
そうあっても、若宮が成長なされれば、それ相応の機会もおとずれることでしょう。
"After grown up of a new prince , it would be a certain fun anywhere or any time ."

命長くとこそ思ひ念ぜめ などのたまはす
長く生きたいとどうか思っていてください、 などとおっしゃられる。
"Please hope to live along as long as possible . "

かの贈物ご覧ぜさす
更衣の形見を帝にご覧いただく。帝は母上からいただいた御髪上げの櫛などをご覧になるにつけても、
The emperor received a relic . ornamental hairpin .

亡き人の住みか尋ねいでたりけむしるしのかんざしならましかば、と思ほすも、いとかひなし
この形見が、もしもできるならば、楊貴妃の魂を探しに行った術仕いが、冥界からもらってきたかんざしであったなら(その住処を仙界に尋ねあて、蓬莱宮に住む楊貴妃はその道士に、証拠にと金のかんざしを渡したと言われている)とお思いにもなるのであった。
and remembered Young Kuei fei's ornamental hairpin which was said to be passed to the magician from Young Kuei fei directly as an evidence to be alive for Young Kuei fei in after death world .


たづねゆくまぼろしもがな、つてにても魂のありかをそこと知るべく
人づてであっても、魂のありかがどこであるか知ることができるような、術士が日本にもいないものかな

絵に描ける楊貴妃のかたちは、いみじき絵師といへども筆限りあれば、いとにほひすくなし
絵に描いた楊貴妃の姿かたち、容貌は、たいへん優れた絵描きといえども、表現には限りがあるので、におい立つような生々しさが感じられない。

太液の芙蓉、未央の柳も、げに、かよひたりしかたちを、
たいえきという名の池に咲いている蓮の花、びやうという名の宮殿に植えてある柳も、楊貴妃のあふれるような美しさをたたえた喩えとして詩に詠われたことだったのだが、 ほんとうに楊貴妃によく似ていて、

唐めいたるよそひは、うるはしうこそありけめ、なつかしう、ろうたげなりしをおぼし出づるに、花・鳥の色にも音にもよそふべき方ぞなき
唐風の装束は端正な感じでこそあるはずなのに、そばに行きたいような雰囲気、ういういしく可憐な様子であった更衣のことを思い出すにつけても、その鮮やかな印象は、花の色や鳥のこえにもたとえることができない。